岐阜大学 園芸学研究室
研究内容
岐阜大学 園芸学研究室
研究内容
バラに関する研究
・切り花品質向上を目指した生理学的研究
 バラは蕾の段階で収穫され、その後花弁が成長し満開まで開花する過程に観賞価値があります。しかし残念ながら完全に開花する前に萎れてしまうことが多々生じてしまいます。
開花は、花弁細胞への糖蓄積、細胞壁のゆるみが起こり、細胞内へ水が流入することで引き起こされる現象です。糖蓄積、細胞壁のゆるみ、水の流入の各ステップにはそれぞれ様々なタンパク質が機能しており、それらタンパク質は色々な刺激によって制御されています。
私たちは、糖質、光環境、植物ホルモンなどがどのようなタンパク質に作用し、バラの開花現象にどう影響を与えるかについて研究を進めています。そして、それらの成果によってバラ切り花の開花をコントロールし、品質向上・観賞期間延長技術に役立たせることを目指しています。詳しくは右欄の「Global Lectures of Gifu University」に動画解説(英語)があります。



「Global Lectures of Gifu University」


↓岐阜大学HP 大学研究紹介↓
「バラの切り花はもっと大きく咲ける!」
・交雑集団を用いた研究
複合抵抗性台木の作出
 バラの苗生産や切り花生産において,バラ根頭がんしゅ病とバラ根腐病という2種類の土壌伝染性病害が深刻な問題を起こしています.バラ苗の多くは接ぎ木により生産されることから,この2種類の病害に抵抗性をもつ台木を開発することで,病害防除の省力化や品質の向上につながると考えています.
 すでに,根頭がんしゅ病抵抗性品種と根腐病抵抗性品種との交配によりF2世代・BC1世代まで獲得し,1個体は根頭がんしゅ病に強い台木用品種として実用化に成功しています.現在はF2世代・BC1世代を対象として耐病性検定を行い,より優良な個体の選抜を進めています.

有用形質の遺伝解析
 複合抵抗性台木の作出に用いている交雑集団の親系統は,有用形質について大きく異なる表現型を示すため,それらの形質の遺伝解析にも活用しています.具体的には花序形態,とげの有無,耐病性,台木特性,花弁色,花弁形状を対象として,最終的には有用形質の原因遺伝子の特定を目指しています.原因遺伝子の特定は育種の効率化や,バラの育種の歴史を紐解く鍵となります.


・ウイルス病の原因となるウイルスの探索

屋外に植栽されているバラでは時折,典型的なウイルス病の病徴を示す個体が見受けられます.このバラのウイルス病は「バラモザイク病」としてひとくくりにされていますが,世界全体でみると11属19種のウイルスがバラに感染することが確認されています.そこで,日本で見られるバラのウイルス病について,どのようなウイルス種が原因であるかを調査しています.感染が認められるウイルス種の特定は,ウイルス感染個体の早期検出技術の開発など,ウイルス病の防除体制の向上につながります.
・バラの花色,花型によるイメージ分類

バラは古代から人々に愛され育種が進められた花であり,様々な色や形の品種が存在します.ひとくちに『バラ』といっても花色や花型は多岐にわたり,消費者が感じる印象は大きく異なると考えられます.そこで,女性が様々な花色,花型のバラを見たときに感じる印象をアンケート調査し,数値化しています.得られたデータは,バラの育種に消費者の嗜好を反映させること,販売店がそれぞれの消費者の要望に的確に応えられるようにすることなどに利用し,バラのさらなる販売促進につなげたいと考えています.

果樹の耐寒性に関する研究

・岐阜県でのアボカド栽培に関する研究

 温暖化に伴い、我が国の果樹栽培は大きな影響を受けることが予想されています。当研究室では、岐阜県農業技術センターと共同で、将来的な適応策として亜熱帯果樹であるアボカドの栽培を検討しています。温暖化が進んだとしても、岐阜県でアボカドを露地栽培するには、ある程度の耐寒性が必要となります。私たちの研究室では、将来的なアボカド耐寒性品種育成の指標となる遺伝子の探索を進めるとともに、アボカドの組織培養技術を確立し、耐寒性のメカニズム解明や耐寒性獲得苗の作製などを目指して研究を行っています。

・モモ耐凍性台木に関する研究

 岐阜県育成のモモ台木品種‘ひだ国府紅しだれ’(宮本・神尾・川部, 園芸学研究 10: 115-120, 2011)は、モモ幼木の凍害防止に有効であることが知られています(宮本・神尾, 岐阜県中山間農業研究所研究報告 12: 27-32, 2016)。
 当研究室では岐阜県中山間農業研究所と共同で、この耐凍性台木に接木することで穂木が耐凍性を獲得する仕組みについて研究しています。まずは‘ひだ国府紅しだれ’自身の耐寒性関連遺伝子について調べるとともに、根からの水や無機イオン等の吸収量・道管流速度と気温との関係などを調べています。

ファイトレメディエイションに関する研究

・観賞花きを用いたファイトレメディエイション

 ファイトレメディエイションとは、植物が葉や根から様々な物質を吸収する能力を活用し、環境浄化に役立たせることです。私たちは特に根からカドミウムなど重金属を吸収する植物に注目していますが、カドミウム耐性がある植物の多くはシダ類に多く、バイオマスが小さい(個体が小さい)ことが難点です。
 私たちは、環境浄化とともに景観美化も兼ねることを目指し観賞花きをファイトレメディエイションに利用する研究を進めています。また、土壌からのカドミウム吸収だけでなく、園芸作物の養液栽培から排出される廃液からリンや窒素化合物を低減させる技術として、観賞花きの活用を検討しています。

育種や増殖に関する研究

・倍数性育種

 倍数性育種は,コルヒチンをはじめとした細胞分裂阻害剤を植物に処理することにより染色体の数を倍にする倍数化により新しい品種を作出する育種方法です.一般的に,倍数化により草丈の低下や葉や花弁の大型化が認められることから,既存品種の観賞価値の向上を目的とした育種によく用いられます.私たちは企業との共同研究として様々な植物での倍数性育種を行っています.
 また,倍数性育種では,見た目の変化以外に,環境耐性も向上するとされています.
そこで,倍数性育種に伴う病害抵抗性も含めた環境耐性の変化について研究を進めています.

・種判定技術の開発

 交雑育種では,胚珠親の雄蕊を予め除去し,花粉親の花粉を柱頭に人為的に付けることで交配を行いますが,交雑個体だけでなく自殖個体も時折混入します.交配により得られた個体が交雑個体か自殖個体かは,PCRと電気泳動により区別することが技術的に可能です.バラの交雑集団を用いた研究においても,この技術を用いて交雑個体であることを確認しています.
 この技術は,植物種の判定にも利用が可能であるため,企業との共同研究として,対象とする植物材料の種を判定する実験条件の確立を目指した研究も行っています.

・組織培養技術の開発
 園芸作物のうち特に花きと果樹は遺伝的に固定されいない品種が多く,栄養繁殖による苗の増殖が広く行われます.その栄養繁殖方法のひとつとして組織培養が挙げられます.組織培養は,挿し木をはじめとした他の栄養繁殖方法より短時間で大量の苗の増殖が可能ですが,植物種ごと(場合によっては品種ごとに)培養条件の最適化が必要となります.企業との共同研究として,対象とする植物材料の培養条件の最適化を目指した研究を行っています.
・クリスマスローズに関する研究
野生種の分類 
クリスマスローズは庭植えや鉢植えで楽しむ多年生草本で,様々な花色の園芸品種が出回っていますが,野生種(原種)もまた需要があります.しかし,野生種には見た目が類似する種が複数存在し,生産や流通の過程での種名の混同が問題となっています.そこで,DNAを用いた野生種の系統分類と,その情報を活用した種判定に関する研究を行っています.

園芸品種の耐病性

 クリスマスローズにおいては,耐病性に関する知見が乏しいため,園芸品種内で耐病性にどの程度の差が存在するのかを,クリスマスローズ疫病などを対象として調査を行っています.研究結果は今後の耐病性育種への活用が期待されます.